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私たちが「バランスの良い食生活を送りたい」と考えたとき、どのような栄養素をそれぞれどのくらい摂取したら良いのかを教えてくれるものがあります。厚生労働省から5年ごとに発表されている「日本人の食事摂取基準」です。
「日本人の食事摂取基準」の策定にあたっては、国民の実態を確認しながら基準が適切なものであるかを常に考察されていて、5年ごとの改訂に反映されています。現在は2015年4月から「日本人の食事摂取基準(2015年版)」が使われています。
コレステロールについては、「日本人の食事摂取基準(2010年版)」では、成人男性について1日750ミリグラム未満、成人女性で1日600ミリグラム未満という基準値が「目標量(生活習慣病予防のために設定されている基準値)」として設定されていましたが、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では基準値が設定されていません。
どのような背景があるのか、見てみましょう。

「日本人の食事摂取基準」におけるコレステロールの考え方
「日本人の食事摂取基準」では、「報告書」がまとめられています。
確認してみるとコレステロールについては、体内で合成できる脂質で、摂取したコレステロールの吸収には個人差が大きいということが書かれています。吸収には遺伝的背景や代謝状態が影響しているといいます。また、食事からのコレステロールは体内で作られるコレステロールに比べるとわずかで、多く摂取した場合、体内での末梢への補給は一定に保たれる仕組みが働くので、「コレステロールの摂取量が直接血中総コレステロール値に反映されるわけではない」とされています。
「日本人の食事摂取基準(2010年版)」でも、食事から摂取するコレステロールと生活習慣病との関連は明らかでないとしながらも、長期間にわたる習慣的な摂取が生活習慣病に関連していることを考慮して目標量が設定されていました。目標量で設定されていたのは「上限値」。摂り過ぎには注意しましょうという忠告をしていたのです。
一方「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、「コレステロールの摂取量は低めに抑えることが好ましいものと考えられるものの、目標量を算定するのに十分な科学的根拠が得られなかったため、目標量の算定は控えた」としています。

コレステロールを制限すると
コレステロールの過剰摂取を避けたいという考え方に変わりはありません。生活習慣病の重症化を予防することも、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」の大切な目的の一つに掲げられていますので、いくら基準値が取り払われたと言っても、やはり摂り過ぎは禁物。
でも基準値見直しの背景には、「健康な人がコレステロールの摂取を制限しすぎてしまった場合」の心配があったと思われます。
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」の報告書には、「コレステロールは動物性たんぱく質が多く含まれる食品に含まれるため、コレステロール摂取量を制限するとたんぱく質不足を生じ、特に高齢者において低栄養を生じる可能性があるので注意が必要」と書かれています。
これに対して日本動脈硬化学会からも「健常者の脂質摂取に関するこの記載に賛同している」というコメントが表明されました。

日本動脈硬化学会の声明
実は過度なコレステロール制限については懸念の声があります。
「日本動脈硬化学会」では「コレステロール摂取に関する声明」というものを出しています(2015年5月)。
これはアメリカにおける「コレステロール摂取量を減らして血中コレステロール値が低下するかどうか判定する証拠が数字として出せないことからコレステロールの摂取制限を設けない」という見解に対しての声明で、動脈硬化に関して、コレステロール摂取のみを制限しても改善がほとんど期待できないことを挙げています。
動脈硬化を防ぐには血中の脂質異常だけでなく血圧や血糖値のコントロール、禁煙や運動などもあわせて、包括的な生活習慣の改善によって予防をしていく必要があるのです。

日本人間ドッグ学会は健診の基準範囲を変更
日本人間ドック学会が2014年に発表した血液検査の新たな基準範囲は、血圧や血糖値、肥満度と並んでコレステロール値についても変更されました。これまでよりも設定されている数値は高く、「異常なし」とする範囲が広がりました。
コレステロール摂取量と血中濃度に明確なつながりが見られないことと、むしろ低いことが死亡率を高めてしまうことから適切なコレステロール摂取については論争が絶えません。実際にこの日本人間ドック学会の基準は高血圧学会が糖尿病学会などの学会とは異なります。日本人間ドック学会では2013年~2014年に150万人もの受診者を対象に調査を開始し、5年間かけて追跡調査が行われるとのことですので、結果がまとまればまた新たな基準が示されることも考えられるでしょう。

まとめ
私たちの身体は複雑な仕組みのうえに成り立っています。ですから血中脂質が異常だからといって、即座に脂質の摂取量を変更すれば問題が解決するなどというような単純な問題ではないのです。食品にはいろいろな栄養素が含まれていますので、一つの栄養素を制限すれば他に気にしていなかったような支障をきたすこともあるのです。
また「日本人の食事摂取基準」のように科学的根拠に基づいた基準を採用することは大切ですが、人体実験を行うことはできませんので科学的根拠を集める作業は困難を極めます。ですから新たな研究結果がまとめられたときにこれまで支持されていた説がくつがえるといったこともあるのです。
では、私たちはどうしたら良いのでしょうか。
ポイントは2つあります。1つは食事について。何事においても「極端を避ける」ということです。極端に一つの食品に偏らない、極端な過剰摂取を避ける、極端な摂取制限は行わない、という心がけが大切です。
ポイントの2つ目は、「食事だけでどうにかしようと思わない」ということです。食事は大切な生活習慣で、私たちの身体に大きな影響を与えます。ですからもちろん食事の見直しも大切。でもそれだけでなく、運動習慣や睡眠、ストレスなど包括的なケアによってご自身の身体の健康を維持していただきたいと思います。

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